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大泉和文 BH 2.x/可動橋



《BH 2.X/可動橋ドローイング》 2019年


大泉和文 BH 2.x/可動橋
2019年8月2日(金)ー25日(日)
OPEN:15:00-20:00 Fri Sat Sun 
N-mark G5

主催:N-mark 共催:STANDING PINE 協力:KOGANE 4422 BLDG.


《BH 1.0/可動橋》2018年 photo©二塚一徹


《シュレーディンガーの猫》2004


《シュレーディンガーの猫 II 》 2007年 写真撮影:二塚一徹

《可動橋/BH》シリーズは文字通り動く橋のインスタレーション作品であり、分断されたこちら側と向こう側を時折繋ぐ。今回の《可動橋/BH 2.x》の橋桁は、透明なアクリル板と細いアルミニウムの構造体で作られている。通常、持ち上がっている橋が降りるタイミングは、観客の存在や意思とは無関係であり、一定周期で上昇と下降を繰り返す。幸運な観客は、実際に橋を渡って向こう側に渡ることができる。ただし、橋桁は透明のために床が見え、それを支えるのも華奢なアルミニウムの構造体であるため、若干の躊躇を伴うかもしれない。
私は昨年の個展に際して、《可動橋/BH 1.0》の背景と意図を次のように記した。その一部を抜粋して再掲する。

物心ついた時、世界は東西二陣営に分かれていがみ合っていた。ベルリンの壁はその象徴的な存在であり、近世の城郭都市が20世紀半ばに突如現れたような歪な存在だった。壁の一面は鮮やかで自由なペインティングに覆われ、もう片方は打ち放しのコンクリートのまま一切の表現を封じ込めていた。一方でこの東西構造と壁の存在は、理想とはほど遠いながらも、未来も続くものと信じて疑わなかった。それが1989年をもって崩壊した時、楽観的な言説が世界を覆ったし、幾つかの枠組みは確実にシフトした。
翻って現在、世界各地に何度目かの壁が建設される時代になった。物理的な壁も確固として存在するし、思想傾向、観念形態としての壁もある。この傾向は暫く続きそうであるし、その数も規模も大きくなる方向に進みつつある。
芸術の役割は壁ではなく橋を作ることであると私は考える。此方と向こう側に橋を架けることは、当然新たな困難も呼び込む。しかしながら、人類の歴史はその衝突と克服の連続であり、なんら問題のないユートピアは永久機関同様存在しない。まずは概念としての橋を作ることから始める。それは壁の堅牢さを競い合うよりも、少しは理想や問題解決に繋がる方向であると思う。(2018年11月)

上記から半年余り経ったが、状況は混迷の度合いを高め、壁の数と規模は拡大の方向にある。この状況を冷徹に見据えながらも失望することなく、暫くは淡々と橋を架け続けていく。軽快で機動性のある橋は、重厚長大で堅牢な壁への一つの対抗策である。

大泉和文





大泉和文の作品にはコンピュータが使われる事が多いが、自らメディア・アーティストを名乗 ったことはない。彼の関心はテクノロジーのデモンストレーションに過ぎない狭義のメディア・アートにはなく、初期コンピュータ・アートの作品群が持っていた多様性の復権であり、大文字の美術史に如何に位置づけるかにある。また、そのテーマは人間的でエモーショナルなものである。
大泉が述べているように、「壁」に象徴される社会の混迷の度合いは深刻だと言える。インターネットという言論空間を誰もが手に入れた昨今では、大小様々な新たな壁が身近で可視化されている。
2016年1月、デビッド・ボウイが亡くなったとき、ドイツ外務省は公式に「壁の崩壊に力を貸してくれてありがとう」と弔事をツィートした。1987年、東西分断下にあったドイツ、ベルリンの壁の西側で開催したコンサートでボウイは4分の1のスピーカーを東ベルリンへ向けた。このボウイが架けた橋によって西側の人々は「自由」を知り、壁の崩壊の一助になったとドイツの人々は考えているから、そのようなツィートがなされたのだろう。
しかし、特に日本においてボウイのようなポップアイコンが存在しない現代において、問題を克服するためには、大泉が言うように、淡々といくつものを小さな橋を架け続けるしかないのかもしれない。映画「ウォーリー(2008/PIXAR)」の主人公のロボットが無人と化した地球のゴミを永遠と片付け続けたかのように。いつか希望の芽を見つけることができると信じて。
今回の展示は、昨年11月に展示された実際に渡れるサイズでありながら、ダイナミックに稼働する「BH/可動橋」で話題となった可動橋シリーズの第2段です。「BH2.x/可動橋」は常時架っている橋ではありません。幸運にもこの橋を渡れた観客には大泉のテーマを共有していただければと思います。

大泉和文(おおいずみ・かずふみ)略歴
1996「未来都市の考古学」展(東京都現代美術館ほか巡回) 1998「デジタルアート・スプラッシュ!」展(福島県立美術館) 2001個展《platform project 2001》(KSP ギャラリー,川崎市) 2002《幻の美術館視覚化プロジェクト:共楽美術館CG,Musée de Noir CG,螺旋展画閣CG 》(中京大学 曽我部研究室との共同制作)「美術館の夢」展(兵庫県立美術館) 2003《シュレーディンガーの(子)猫》「Media Art A to Z」展(国際デザインセンター,名古屋市) 2004個展《シュレーディンガーの猫 / 皇帝列車》(ギャラリーC・スクエア,名古屋市) 2006《螺旋展画閣CG》迷宮美術館 NHK BS hi,2006.01.16 放送 2007《シュレーディンガーの猫 II 》「アート イン コンテナ」展,神戸ビエンナーレ2007 2017《Loss of Horizontality》インターフェイスとしての映像と身体(愛知県立芸術大学) 2018《視覚装置I-視差について 》,《視覚装置II-視軸について 》拡張する知覚-人間表現とメディアアート展-(愛知県立芸術大学)

関連イベント
オープニング・パーティー/アーティスト・トーク

8月2日(金)19:00〜 【参加費500円】

N-mark G5
KOGANE 4422 BLDG.

〒453-0803 愛知県 名古屋市中村区長戸井町4-38