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大泉和文 BH/可動橋



《 BH 》ドローイング 2018年


大泉和文 BH/可動橋
2018年11月24日(土)〜12月22日(土)
15:00-20:00木〜土開廊
N-mark G5



《シュレーディンガーの猫》2004


《シュレーディンガーの猫 II 》 2007年 写真撮影:二塚一徹

分断の時代だが、私たちには人間として感情を共有できる文学、映画、音楽などの芸術がある。

カズオ・イシグロ


 欧州の地方都市を訪れると、近世以前の城郭都市の痕跡に気付くことがある。かつて城壁が占めた場所は,近代以降の都市の発展に伴い、現在の市街地半ばに環状緑地帯となって残っていた。封建制の瓦解と共に防壁=城壁は無意味になり不要になったはずであった。
 物心ついた時、世界は東西二陣営に分かれていがみ合っていた。ベルリンの壁はその象徴的な存在であり、近世の城郭都市が20世紀半ばに突如現れたような歪な存在だった。壁の一面は鮮やかで自由なペインティングに覆われ、もう片方は打ち放しのコンクリートのまま一切の表現を封じ込めていた(その頃あるプログレッシブ・バンドは、大規模なステージセットを組んで「壁」を歌った。別のアーティストがベルリンの壁の向こう側にPAを向けて行ったライブは伝説となった)。一方でこの東西構造と壁の存在は、理想とはほど遠いながらも,未来も続くものと信じて疑わなかった。
 それが1989年をもって崩壊した時、楽観的な言説が世界を覆ったし、幾つかの枠組みは確実にシフトした。私自身、人類も捨てたものじゃないと心の底から思った。将来の成り行きに対して、それまで感じたことのない明るい見通しを持った。それまでどちらかというと世界を斜めに見ていた私は、それ以降楽観主義者になった。  翻って現在、日本ではちょうど平成にあたるその後の30年間がどうだったのかは明らかである(ある小説家は「壁に投げつけられる卵」の比喩をもって自身のスタンスを語った)。世界各地に何度目かの壁が建設される時代になった。物理的な壁も確固として存在するし、思想傾向、観念形態としての壁もある。この傾向は暫く続きそうであるし、その数も規模も大きくなる方向に進みつつある。

 芸術の役割は壁ではなく橋を作ることであると私は考える。此方と向こう側に橋を架けることは、当然新たな困難も呼び込む。しかしながら、人類の歴史はその衝突と克服の連続であり、なんら問題のないユートピアは永久機関同様存在しない。まずは概念としての橋を作ることから始める。それは壁の堅牢さを競い合うよりも、少しは理想や問題解決に繋がる方向であると思う。

大泉和文





N-markは2018年12月に活動開始20周年を迎えます。この1年はそれを記念したプロジェクトを展開してく予定で、本展はその第一弾として開催するものです。 大泉は著書『コンピュータ・アートの創生 ── CTGの軌跡と思想 1966−1969』(NTT出版)など、日本の初期コンピュータ・アートの研究を行っています。同時にドローイング・マシンなどの大型インタラクティヴ・インスタレーション作品の制作を手掛けてきました。それらは美術的センスに裏打ちされた設計と、自ら機械加工するディティールが特徴的な作品です。今回の展覧会[BH/可動橋]は、黄金 4422ビル N-mark5G のギャラリー空間に可動橋が出現する第一段(アーキタイプ)となります。この橋を渡り、橋はどこからどこへ掛けられるのかを想像しつつ、さらに拡張した橋となる第二段の開催にご期待ください。

大泉和文(おおいずみ・かずふみ)略歴
1996「未来都市の考古学」展(東京都現代美術館ほか巡回) 1998「デジタルアート・スプラッシュ!」展(福島県立美術館) 2001個展《platform project 2001》(KSP ギャラリー,川崎市) 2002《幻の美術館視覚化プロジェクト:共楽美術館CG,Musée de Noir CG,螺旋展画閣CG 》(中京大学 曽我部研究室との共同制作)「美術館の夢」展(兵庫県立美術館) 2003《シュレーディンガーの(子)猫》「Media Art A to Z」展(国際デザインセンター,名古屋市) 2004個展《シュレーディンガーの猫 / 皇帝列車》(ギャラリーC・スクエア,名古屋市) 2006《螺旋展画閣CG》迷宮美術館 NHK BS hi,2006.01.16 放送 2007《シュレーディンガーの猫 II 》「アート イン コンテナ」展,神戸ビエンナーレ2007 2017《Loss of Horizontality》インターフェイスとしての映像と身体(愛知県立芸術大学) 2018《視覚装置I-視差について 》,《視覚装置II-視軸について 》拡張する知覚-人間表現とメディアアート展-(愛知県立芸術大学)

関連イベント
オープニング・パーティー

11月24日(土)18:00〜

アーティスト・トーク
大泉和文×小西信之(愛知県立芸術大学美術学部芸術学専攻教授、美術評論家)
12月15日(土)18:00〜

N-mark G5
KOGANE 4422 BLDG.

〒453-0803 愛知県 名古屋市中村区長戸井町4-38