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森田美里|山をつぶす人





《Golden slumber》2013年


《Kidnap》2013年


《べろりんちょ》2010年


《アトリエ風景》


大きな角や豊かな鬣を持った、動物とも怪物ともつかない半人半獣のような造形。その量感から放たれる、燃え上がる生命感を持つ作品は、見たことがあるようでない、今ではない、遠い過去や未来に存在する生き物のようである。
大学で絵画を学んだ森田にとって、立体作品は平面上で生み出された形が隆起したものである。それは綿密な設計図ではなく、立体化の工程の中で形を変容させる。
紙面で描かれた線は、森田が「身」「具」と呼ぶもの(トイレットペーパーに、ボンド、染料を混ぜたもの)に置き換わり、支持体に肉付けされていく。紙面で線が重なるように、「身」や「具」が支持体の上で隙間を埋めつくし、それらを犇めき合わせることで、作品が立ち現れてくる。
この「犇めく」という漢字は牛という字を3つ書き連ね、まさに牛が身を寄せ合っている様を思い起こさせる。奇しくも森田が10代から学生時代を通じて描いたモチーフに牛がある。そのルーツは決して牧歌的なものではない。彼女が高校時代に見た、動物や植物が食物へと加工される工程が淡々と撮影されたドキュメンタリー映画「いのちの食べかた」にある。「お肉」についてのそれは、私たちが普段何気なく食べているハンバーガーの「身」「具」が作られる工程である。流れ作業で行われていくその工程の中に、人間的な感情は存在しない。それは森田の制作スタンスとは真逆である。本来そこにあるはずの恐怖、狂気、痛み、混沌といった心身を刺激する感覚が森田のアトリエにはある。そこで生まれる作品は、食卓に上るクリーンな加工食品ではなく、今まさに射止めた、まだ体温が残る獲物のように見る者が畏怖するものとなる。
2011年、N-markのプロジェクトである「新ナゴヤ島(横浜)」で発表された、森田にとって初の立体作品もまた牛である。可愛らしい布のパッチワークでできた作品は、くりくりとした大きな瞳で、背中に人を乗せ会場を移動することもでき、多くの観客が楽しげに作品と接していた。一見愛おしい状況であるが、それは食肉加工の過程を想像せずにハンバーガーを頬張る私たちに対する批判である。怖くて目をそらしたい部分は、大きな口から不気味に伸びた何枚もの舌、パッチワークに名を借りた継ぎ接ぎだらけの身体として可視化された。この見たくはないものを可視化するという点は、半人半獣のような作品の制作過程にも共通していく。
森田の作品制作は開放と抑圧という矛盾した状況が同時に存在する混乱したものである。「身」や「具」を手にとって、細胞が増殖するように作品を成長させていく行為は快感で、自身を開放する儀式のようであるが、出来上がった作品が空間を占拠し、批評にさらされることはストレスである。もちろん、生活の中で抱える個人的なストレスもここに含まれるであろう。乱雑に散らかったアトリエの中で、小さなドローイングが大きな立体として立ち現れる様は、その不安や恐怖に抗うかのようである。きっと目にしたくない現実が大きいほど、作品の魅力もより力強く放たれるのだろう。
本展「山をつぶす人」では「山」がモチーフとなる。それは、取るに足らない「塵」のような存在や出来事が積もり積もって大きくなった山。作品制作という葛藤の中から、森田の内面にある感情がマグマのように噴出し、N-MARK B1に新しい山が誕生します。その山の中でどんな生命と出会うのか。遭難覚悟で頂へ挑みます。


森田美里略歴
1991 高知県まれ 2009 名古屋芸術大学美術学部入学 2013 名古屋芸術大学美術学部美術学科洋画2コース卒業 現在 愛知県北名古屋市在住
個展:2011 保存温度5°C以下展(Art&Design Center、愛知) グループ展:2010 present(Art&Design Center 、愛知) 2011 i/o in YOKOHAMA(横浜トリエンナーレ特別連携プログラム『新・港村』、横浜) 2013 PRISM(VOICE GALLERY、京都) 2013 第1回三芸大学生選抜H/ASCA展(ダイテックサカエビル展示場、愛知) 2013 ワンダーシード2013(トーキョーワンダーサイト本郷、東京) 2013 くうちゅう美術館(名古屋テレビ塔、愛知) 2014 あいちの文化育てまSHOW(NHK名古屋放送センタービル1階、愛知) 受賞歴:2013 名古屋芸術大学学生表彰 学部長賞受賞 その他:2010 artist run space i/o 立ち上げ (北名古屋)


 
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2014年9月26日(金)ー10月11日(土)│13:00ー19:00│日・月曜定休│入場無料
〒460-0003名古屋市中区錦2-11-13 chojamachi TRANSIT BUILDING-B1
主催:N-mark│協力:chojamachi TRANSIT BUILDING│後援:名古屋芸術大学

展覧会関連企画

オープニング・パーティー/アーティスト・トーク
9月26日(金) 19:00ー
トランジットスタジオ(トランジットビル 2F )
【参加費】500円