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加藤智子|手つかずの手垢





《本物になるために、隠して、忘れて、仕立て上げ》2015年


《そこで死に続ける、生き続ける肉体への侵入》2015年


《ぽこぽこ》2014年

N-markは毎年春先に美大、芸大の卒業制作展等を中心にリサーチし、無審査で展示可能な展覧会「BLACK TICKET展」への出品を募る招待状をアーティストに届けている。2015年よりN-mark PRIZEを設け、受賞者にはN-MARK B1での個展開催の権利を授与することにした。加藤智子はその展示の出品者であり、記念すべき初の受賞者である。
受賞作である「本物になるために、隠して、忘れて、仕立て上げ」の見た目は恐ろしくチープだ。空気入れがあり、その先端には足を型どったゴム製のオブジェが装着されている。鑑賞者は空気入れでそれに空気を送り込むのだが、密閉されていないために膨らまずビビビ・・・と音をたてて震えるばかりである。それは作家が体験したある夜の出来事を元に生まれたものだ。 一日を海で楽しく過ごしたその夜、身支度を整え床についた時ふと自分の足の裏に砂浜の感触が残っていることに気づいた。砂や海水の感触や温度はその1日の気配を集約している。足の裏だけが常時「海」と密接に触れているわけだからそれも頷ける。 寝しなに足の裏に蘇った気配はこの作品のようにささやかで、震えるゴムにくすぐられる程度に細やかなものなのかもしれない。 膨らまそうとしても膨らまない風船は、伝えようとしても伝えられないもどかしさのメタファーのようでもある。気配とはそもそも数値化して誰もが共有できるものではない。しかしこの作品は、自分だけが感じた気配を不器用に伝えようとしていて愛おしく思えてくる。この不完全さこそが彼女が感じた気配のリアリティなのである。
いつまでも消えなかったり、突然蘇る感覚。それは実際にその感覚を得た場所に、今はもう不在な自分の中に置き忘れられた感覚。持ち主の体型にフィットするように変形したソファ、さっきまで人が座っていた電車の座席に残された僅かなくぼみや体温、その不在となった人の気配。そんないずれも名前をもたない痕跡に触れようとする、加藤の作品世界を見てみませんか。


加藤智子略歴
1993 愛知県まれ 2015 名古屋芸術大学美術学部美術学科洋画コース 卒業
2012 460人展(名古屋市民ギャラリー矢田、愛知) 2013 加藤智子展(金山ブラジルコーヒー、愛知)2014 うわごとのうわずみの下のほう(名古屋芸術大学学内展示、愛知) 2015 BLACK TICKET 2015(N-MARK B1、愛知)


 
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2016年1月8日(金)ー1月30日(土)│13:00ー19:00│日・月曜定休│入場無料
〒460-0003名古屋市中区錦2-11-13 chojamachi TRANSIT BUILDING-B1
主催:N-mark│協力:chojamachi TRANSIT BUILDING
本展は名古屋市文化基金事業 ファン・デ・ナゴヤ美術展2016「新ナゴヤ島」の特別関連プログラムです。
新ナゴヤ島|2016年1月8日(金)ー1月24日(日)会場/名古屋市民ギャラリー矢田 3F第2−7展示室

展覧会関連企画

オープニング・パーティー
1月9日(土) 19:00ー
【参加費】500円