「越後妻有トリエンナーレ」を考える by 大友恵理

 6市町村にまたがる広大な山里を舞台に開催されたこの展覧会は、蓋を開けてみれ ば「公共事業をパブリックアートで」といった趣だが、町おこし、レジデンス&ワー クショップ(作家と地域住民が一緒に制作)など様々な側面も持っている。どの要素 を重視するかで評価が随分変わってくると思われるが、「国際展」と銘打って開催し ていることを踏まえ、海外からも注目を集める内容を目指すものとして、考えてみた いと思う。

 展示作品の多くは、野外に設置されたモニュメント的な中〜大型立体作品。約142名もの作家が参加しているが、私が記憶する限りでは、映像を扱った作品は3組しか ない。美術館のような展示施設を作らず、トリエンナーレ作品を野外設置することで その土地を公園として整備していくやり方は、パブリック・アート企画を多数手がけ る北川フラム氏の得意とするところ。作品の色彩も、野山や棚田の緑に映える赤黄青 といった原色使いで、どこまでが作家の意向でどこまでが北川氏のディレクションな のかと思ってしまう。

 そんなパブリック・アート的見せ方はまずまずといったところだが、美しい田舎の 風景の中で単なるモニュメントに陥るか、それとも観客を立ち止まらせるような存在 感を放つかは、やはり作家達の力量にかかっている。「場所が良ければ、作品もそれ なりに良く見えてしまう」という意見もあるが、その割には作品の善し悪しの差が激 しく、どのような基準で作家を選考したのか疑問に感じた。海外ビッグネームが期待 外れだったり今後の期待度で選ばれた中堅どころは仕方ないとして、作品公募までし ていながら、国内のアートシーンで考えても決して良いとは思えない作品が招待枠で 多数展示されている。とりわけ地元作家を中心とする松代商店街会場の展示は、他会 場と比べてかなり見劣りする。事前に配布されたプレスリリースから、当初は「企画 展」として展示する予定だったと思われるが、実際は他の展示との区別なく並べられ、 公式ガイドブックにも地図などの配布物にも何も記載されていない。若干名の超A級 作家達を招待しても、脇を固める多くの招待作家が振るわなければ、展覧会自体はや はりつまらないものとして目に映る。国際展としてアピールしていくのであれば、あ る程度のクオリティは必要である。地域に根差した作品を期待したのかもしれないが、 これではわざわざ海外から足を運ばせるような影響力は見込めない。(もし本当に地 元作家企画を意図したのであれば)せめてそれが別枠であることを明記し作家選考の 意図を示すべきだろう。

 その他の特筆すべきことはやはり地域住民の存在である。このトリエンナーレが住 民たちに思いのほか好影響を及ぼしているのを知り驚いた。この手のアートイベント はともするとお節介で恩着せがましくなりがちだが、巻き込まれた住民たちは意外と 好意的である。長期滞在型制作もワークショップも、アート以前に人と人との付き合 いがベースにあるからだろう。例えばブルーノ・マトンの展示会場では、制作を手伝っ た住民達が展示の様子を見に入れ替わり立ち替わり訪れていた。  そんな調子で、公共事業でありながらハンドメイドなこの展覧会は不思議なくらい 裏方の人達の顔が見えてくるのだが、それを感じれば感じるほど、いま一つな作品を 見るとそこに費やした彼らの労力や経費が思い浮かんでくる(例えば、会場として農 地を提供したことで、土地提供者は作物の収穫減となること、など)。あんなに頑張っ てサポートしているのだから、住民達には(これはボランティアの人達にも言えるが) いいアートに出会ってほしい。

 さて、ここまで大規模に開催して地域はそれに見合ったものを得たのだろうか。住 民が作家の制作活動に接する機会は、アーティスト・イン・レジデンスでも得ること ができる。町づくりとはいえ、このペースでは地域はすぐにアートだらけになってし まうに違いない。これほど大規模なパブリック・アートをトリエンナーレで継続して いけるのか?地域外への広報に力を入れていた割には、受け入れ体制があまりない (交通、食事、宿泊など)。ここから外貨(円)を得ようとする観光ビジネスも見当 たらない。住民に「国際展」は必要なのか?(通常、海外作家を招待するだけでは国 際展とは言わないはずだ。)  記念すべき第一回開催であるが、私個人の印象では残念ながら3年後への期待感は 持てなかった。今回のスタイルがそのまま次回へ持ち越されるとは思えないが、良い 形で発展することを願う。

おまけ:この展覧会の正式名称は「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ20 00」らしいが、「大地の芸術祭」「越後妻有アートトリエンナーレ」どちらがメイン でどっちがサブタイトルなんだろう???


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越後妻有アートトリエンナーレ
会期:2000年7月20日〜9月10日
URL:http://www.artfront.co.jp/
art_necklace/top.htm

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