週刊「÷3」

TEXT by Maki Takemoto

竹本真紀 profile
1976
青森県八戸市に看護婦の母とバンドマンの父の間に生まれる。

1992
中学校卒業記念イラスト展 (八戸NHK)文化センター

1994
バンド「根城パラダイス」(八戸西高等学校体育館で一度限りのライブ)

1999
国立弘前大学教育学部小学校教員養成課程卒業
美術科卒業制作展(弘前大学学生会館、弘前VIVRE)

2000
ひいらぎ展 (柏高島屋ステーションモール市民ギャラリー)
美学校トンチキアートスクール入校 千葉県柏市在中


横浜トリエンナーレで展示したナウィンの2400角×6枚組の作品を越後妻有に展示しに行きました。
横トリでは絵の裏からまわってとめることができましたが、今回はコンクリート打ちっぱなしの壁にベタ付けとのこと。
下見に行くと、まっさらな壁でなく障害物多し。
お世話になった美術施工会社の心の師匠にまず相談し、電話の向こうでは現状を把握できないのであとはこちらで方法を考えることになりました。
ローリングタワーを借りるために前の職場の某美術施工業者へ行きました。
元上司が仁王立ちで待ちかまえていました。
こちらがらくだろうと、手動の一人乗り用のタワーを貸してくれました。ここの会社のことを「ネバーランド」と言ってたおねえちゃんがいて、久しぶりに会ったのに何人かお会いした社員の方は本当に変わっていませんでした。
安全帯とヘルメットも借りました。
ここの会社に美学校のトンチキアートクラスの講師の方からご紹介いただき、働くことになったとき、この仁王立ちでまっていた方は何にも仕事をさせてくれなくって、お掃除ばかりをやっていて、あとから入ってきた男子たちはどんどん仕事をさせられていて本当にくやしい思いをしたものでした。
努力のかいあってそのうち下克上しますが、そんないやな心の傷なんかがあったのですが、応援しにいきたいけど現場で行けないというその上司が、わたしが行くなら大丈夫と言ってくれたので、ちょっとうれしかったです。
作業一日目にも心配して電話をくれました。
下見の時点では不安な点がありましたが、作業の方向性が見えたらさくさくと作業はすすみました。
「無事つけ終わりました!」と連絡するとご褒美(?)にヘルメットと安全帯をくれました。
久しぶりに朝まで飲みました。
新宿ゴールデン街から次々ろ違う店をお酒一杯ずつまわっていきましたが、名物マスターからは勉強になることがたくさんありました。
お客さんに媚びていない。逆に「おれの話をきけ!」とどなったりしていました。
好きなことをして、自分のスタイルは守りながらお店は35年も続いているそうです。
なぜこのお店が35年も続いているんだろう。
どなられたお客さんは笑ってきいています。
カウンターのライトはチューリップが逆さにつられたようなかわいなつかしいデザインです。
「かわいいですね。」というと、前はもっと大きいのが下がっていて、お客さん同志の喧嘩で割れてしまったのだといいます。
だから割れない素材のチューリップのライトにかえたのだとか。
そのうち「おごりだ!」とかいって一升瓶をカウンターに置きました。
勝手についで飲めというのです。
カウンターにはマジックで描いた図形のようなものがあって、それはマスターがなんとなく描いて良かったから貼っているんだということでした。
ものを作る人間にとっては核をついたことをお話しているマスター。
昔は放送関係のお仕事についていたらしく、著名な映像関係の方もよく訪れるようでした。
このお店には嘘がない。
こじゃれたものや気のきいたメニューも何もない。
酒と、お通しは干しわかめだけ。
期限のすぎた演劇の告知。
BGMはちあきなおみと美空ひばり。
ちあきなおみのジャケット写真を見たらこのお店でした。
入れ替わりが早い新宿ゴールデン街のお店の中でこのお店だけは変わらずに続いています。
何十年ぶりにきてもお客さんはタイムスリップしてしまうんでしょうね。
お店やマスターから気をもらいましたが、こういう飲みは何年かに一度でよいかもしれないと思いました。
わたしはたまたま人について飲み屋をまわりましたが、わたしはここにいてはいけないと思いました。
ここは一線にたてない人が芸術論や社会論をかわしに来るところでもあると思いました。 どちらかというとそちらの人口の方が多いように思います。
中にはすばらしい人や一線にたっている人がいます。
ゴールデン街の雰囲気は好きなので、いつでも来たいとは思います。
居心地がよいからこそ来てはいけない。関わり方にもよるとは思います。
連日の仕事で疲れてうとうとしかけたとき、「真紀ちゃんはまじめすぎる。理屈っぽい。」などというセリフが耳に入ってきました。
「世の中の悪い部分に汚されていない。」とか言う言葉も耳に入ってきました。
わたしが見て来た一線でやってる人はみんな「まじめすぎる。」はたから見て、アホなことやってるな〜と思っても、本人は命がけでやってたりします。
飲み屋のマスターだって「まじめ」だと思います。
あなたはそうやって人の批判や美術の人間が食べていけるような環境ではないと世の中をせめて生きていってください。
誰かがやるのではなく、一人一人が意志をもたないと何も変わりません。
世の中のせいではありませんよ。
あなた自身の問題です。
と、人に言ったことは必ず自分に返ってくるので、そう、自分に言い聞かせるのでした。


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